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女性社長インタビュー

業歴5年以上の方をメインに、会社員時代のキャリアや独自のアイデアを活かしているスタートアップの方まで。
企業の裏話や事業継続の秘訣などを伺っています。

予期せぬ形で起業するも、<br/>強い使命感を胸に会社経営に邁進する
Interview vol.56

予期せぬ形で起業するも、
強い使命感を胸に会社経営に邁進する

有限会社 ファイバーコーディネートサービス 野村 悦子さん

http://fiber-coord.com/

大学卒業後、地元長崎で、船舶建造の各国ルール等の翻訳を経験後、米国に2年半留学。卒業後、JTBの米法人で7年間勤務。ビザ失効を機に帰国し、仏系ホテルの営業に携わる。2000年、英国の老舗繊維メーカー、旧コートルズの日本法人に社長の通訳として入社。2004年、日本法人閉鎖により同年独立。欧州メーカー商品を取り扱い、日本の代理店としての役割を果たす他、製品開発にあたって情報提供や市場調査を含むコンサルティング業務も行う。

予期せぬ形で起業するも、強い使命感を胸に会社経営に邁進する

外資系企業の吸収合併による日本法人閉鎖という予期せぬ形で会社を設立することになった野村さん。日本と欧州のメーカーの間に立つという仕事の特性から感じた国による違い、繊維という小さいながらも多数の製品の重要な資材となる商品を取り扱ううえでの会社の使命感などたくさんのお話を伺った。

会社を畳むわけにはいかない

2000年、野村さんは社長の通訳として旧コートルズの日本法人に入社した。当時、まだ繊維産業が盛んだったがその後激変。2004年、繊維を販売する英国の老舗メーカー、旧コートルズ社から最終的に生き残っていたテンセル社は吸収合併され、20年以上続いていた日本法人の閉鎖が決まる。野村さんは閉鎖の連絡を新婚旅行の帰りに受け、突如、会社を設立することになる。
野村さんの仕事であるコーディネートサービスは相手のあること。顧客が長年やってきたプロジェクトや研究中のものもある。会社を畳むことは道義的にできなかった。しかも翌月には大きなイベントに参加することが決まっていた。野村さんは心の準備もないまま独立の必要に迫られる。閉鎖の事務手続きから、ライバル社に買収ということで疑心暗鬼になっている日本の顧客対応など、やることは山ほどあった
通訳をするにも専門知識が必要であり、野村さんはファイバーコーディネーターという肩書きを得る。繊維と一言で言っても幅広い。製品を作るにあたってどのタイプの繊維が適しているかをコーディネートする仕事だ。社員の多くが華やかなテキスタイルを担当しており、コーディネートを必要とする特殊な産業資材を担当していたのは社長と野村さんのみ。事業を続けていくには野村さんの専門知識が必要だった。

欧州のいい素材を世界一の技術を持つ日本へ。日欧メーカーの違い

ヨーロッパのいい素材。日本の優れた技術。いいものをいいところへ。日本と欧州のメーカーの間に立って双方とコミュニケーションをとりながら同じゴールに向かうようつないでいくことが野村さんの仕事だ。いい素材をどのように料理してもらうか、可能性を広げてくれるか鍵は相手が持っている。 以前、こういう繊維を作って欲しいという日本メーカーからの依頼があり、欧州メーカーが「技術的に無理」と渋りながらも最終的に作ることに成功したということがあり、やりがいを感じた。
日本と欧州、双方のメーカーと仕事をするうえで大きな違いを感じる。欧州のメーカーは依頼すると、やらないとわからないからと、とりあえずやってみるが、何回か試してダメなら諦めてしまう。日本のメーカーは何かと理由をつけてなかなか着手しないが、実はその理由に成功の鍵が隠されており、最後まで取り組めば成功する確率は高い。
欧州企業と仕事をするうえで時差という問題もある。現在2歳と5歳の子供の母でもある野村さん。最初は自宅で仕事を行う方がやりやすいと考え自宅を事務所にしていたが、メールが届き始めるのは子供を寝かせる時間と重なる。育児と仕事、どちらかをやっていてももう一方が気になってしまい集中できなかった。いつも何かに追われているように感じ、第二子の出産後、事務所を設けた。

新規顧客である欧州メーカーの日本進出の礎づくりに一肌脱ぎたい

「常にその時その時が大変」と話す野村さん。常に問題は発生するが何とか乗り越えてきたから今があるのだと思う。リーマンショックや船の遅延などで2、3度赤字になったことはあったが、幸い資本金がゼロになることはなく順調にやってきた。スタート時から顧客がついていたことと、いい商品を扱うという既存の強みだけでなく新規顧客の開拓など野村さんの努力もある。
テンセルを商標登録するオーストリアのレンチング社、独のケルハイム社は独立時からの取扱メーカーであるが、独のハル(HAHL)社、ペデックス(Pedex)社は独立後の新規顧客だ。独立して4年経った2008年、ハル社が日本の代理店を探しているという紹介を受け、担当者の来日の際に2、3時間の面談をした。それまで取扱っていたものと全く違う分野であったためとてもできないと思ったが、担当者とフィーリングが合ったこともあり挑戦してみることにした。無理だと思って挑戦せずに諦めてしまうとゼロになる。でもやってみて失敗してもその失敗を次に活かすことができる。事業規模が拡大すれば商社にお願いすればいいが、商社に委託することで担当者の思惑とずれる可能性もある。日本進出にあたって野村さんがコーディネートすることで、担当者のやりたいようにやれるような礎を築くサポートをしたいと思った。

人間の生活を支える製品づくりに一役買いたい

現在、ファイバーコーディネートサービスの顧客である日本メーカーは、メインである車、電池関係が5、6社。テキスタイル用原料を卸しているのが3、4社だ。サプライチェーンのトップとのやりとりのみのため社数は比較的少なめだ。
新規顧客の開拓についても日々考えている。欧州の繊維メーカーからもせっつかれる。次に確立したいと思っているマーケットは水処理関係。日本は水が驚くほど豊富だが、水はとても大切な資源だ。おいしい水、きれいな水には必ずフィルターが必要になる。以前は濾紙メーカーにアプローチしていたが、なかなか話が進まない。一方、濾器メーカーは展示会も多い。トップからこれを使って欲しいという指示を出してもらうプル効果を狙い、次は濾器メーカーにアタックしてみたいと思っている。
また、震災を機にエネルギーについて深く考えさせられた。安定したエネルギー、蓄電の重要性を強く感じる。会社の主力製品からできている電池。繊維は、見えないところで大きなパワーを出している。こうした目立たないけれども非常に重要なものの製造に携わることで人間の生活を支えることに一役買えたらと思う。
「私自身の能力も限界がある。種をまいていくことが私の仕事。」と野村さんは話す。種に栄養を与え、育てていってくれるメーカーを探し、よい素材に可能性を与えていきたい。

(インタビュー&ライティング 杉田屋 まりえ)