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女性社長インタビュー

業歴5年以上の方をメインに、会社員時代のキャリアや独自のアイデアを活かしているスタートアップの方まで。
企業の裏話や事業継続の秘訣などを伺っています。

「母親の料理を受け継ぐことの大切さ。<br/>失う前に気付いてほしい」
Interview vol.8

「母親の料理を受け継ぐことの大切さ。
失う前に気付いてほしい」

有限会社ToDear 島本 美由紀さん

1975年生まれ。世界40ヶ国、100回を超える海外旅行で出会った各国の料理をヒントに、主婦や同世代の女性のために手軽でおいしい料理の研究に励み、初心者でも楽しめる簡単レシピを考案。雑誌で連載を持つほか、各種メディアでオリジナルレシピを披露するなどして活躍している。 2006年に有限会社ToDearを設立し、母から子へ贈る料理本作成の事業をスタート。執筆活動にも力を入れ始め、07年9月、12月と相次いで著者本が発売される。

「母親の料理を受け継ぐことの大切さに、失う前に気付いてほしい」

そんな想いから全く新しい商品の販売を始めた料理研究家、島本美由紀さん。 本当は大切なことなのに、気付いていないことがたくさんある。 広めていくのは大変だけど、気付いてもらうこと、共感してもらうことの喜びは、何よりも大きいと思います。 料理研究家という枠を超えた今までにない取り組みを一般に広めるまでには苦労の連続だが、「たとえこの商品で儲けが出なかったとしても、一人でも多くの人に家庭料理の大切さに気付いてもらいたい」と考える彼女に、起業して商品を発売するまでの苦労と、この商品にかける想いを語ってもらった。

母の死が教えてくれた「家庭の味」という大切なもの

私が21歳の時、突然母が亡くなりました。当たり前すぎて存在さえもさほど意識しないものが、ある時突然無くなってしまうということの悲しさ、虚無感のようなものを初めて身にしみて感じた瞬間でした。その後しばらく、外食をしても、凝った料理を作ってみても、何か充たされない気持ちが続いていた私は、ある時ハッと思ったのです。「お母さんのハンバーグが食べたい!」
レシピを教えてもらっていなかったので、記憶だけを頼りに作ってみたものの、初めは全く再現することができません。苦労に苦労を重ねて、やっと母の味にたどりつくことができたのは、5回目の挑戦の時。嬉しさ、懐かしさと、母との思い出が入り混じって、食べながら一人でぼろぼろと泣いてしまったのを覚えています。
その後、料理研究家として活動していく中で、美味しい家庭料理の一番のポイントは、作る人が家族の幸せを想って健康や好みを考えて工夫することにあるということを強く感じました。「ならば、私にできることは何だろう?」と考えた時に、自分が母のレシピを再現できずに辛い思いをした経験を思い出し、「だったら、そうなる前に伝えられるものがあればいいんだ!」ということで、母の料理を娘に引き継ぐことをコンセプトとした商品を思いついたのです。私の経験してきたこと、ずっと願ってきたことの集大成として、どうしても商品化して皆さんに提供したいと思い、この商品を販売するために起業することにしました。

我が家の味と、母の想いを伝えるもの「お料理アルバムMyDear」

2005年に食育基本法が成立するなど、国を挙げて食育の重要性が広められています。私は、食に関する知識というのは、家庭をステージとした日常生活の中で自然に育まれていくのが最も望ましい姿だと考えています。おばあちゃん、お母さん(もちろんお父さんでも)と一緒に買い物に行って、一緒に料理をしているうちに身につくというのが昔からずっと続いてきた自然なことです。本屋には、「おふくろの味」を謳ったレシピ本が並びますが、それらは「どこかの家の味」であって、自分にとっての「我が家の味」ではありません。本当の意味で我が家の味を受け継ぐためには、一家に一冊のレシピ本が必要なはずです。
そこで、「お料理アルバム」というオーダーメイドの本を作り、それぞれの家庭の味を形にしてずっと残しておけるようにしました。また、「せっかくなら、贈る母にとっても、もらう子どもにとっても一生に一度の宝ものとして大切にしてもらいたい」という想いから、子どもの頃からの思い出写真や直筆のメッセージを添えられるようにして、母の愛情と想いをたっぷり込めてもらう仕様になりました。「MyDear」という商品名は、母が我が子を想う気持ちを表現したものです。
私が心から欲しかったもの、母からもらえていたら一生の「宝もの」になっただろうと思うものを実現することができ、本当にうれしく思っています。

想像以上の苦労の連続、気付いてもらうことの難しさ

事務所を借り、考えに共感してくれたかつての同僚に社員として加わってもらって商品開発にあたりましたが、デザインや構成、製本ルートの確立まで全てを自分でこなさなければならず、苦労の連続でした。もらって嬉しいもの、一生の「宝もの」になるものにするために、何度も何度も構成をやり直し、デザインに悩み、やっと発売の目途が立った矢先に製本会社の制作能力に問題があることが発覚したりと、最終的に発売を開始するまでには、起業してから約1年を待たなければなりませんでした。また、やっと発売できたものの、販路を広げていくなどという作業は今までやったことがなかったので、何をどうすれば良いのか検討も付かず、本を読みあさったり知人を頼ったり、とにかく営業をかけてみたりと、手探りの状態が今でも続いています。この商品は、今まで全く類似するものがなかったことや、そのありがたさを直感的に感じることが難しいことから、単純に広告を出しただけではうまく伝わらず、反応が悪いことが悩みです。
それでも、コンセプトに共感して購入していただけた方から、「初めて母と一緒にキッチンに立つことができて、すごく良い思い出になった。」「母がどんな想いで私たちに料理を作ってくれていたのか感じることができた。母からもらった直筆メッセージは、私の一生の宝ものです」と言葉をいただくと、「こんなことで負けてられない。もっともっとたくさんの人に知ってもらって、同じ気持ちを感じていただこう!」という気持ちになれる。お客様から勇気とやる気をいただいて、地道でもいいからコツコツと広げる活動を続けていこうと考えています。

家庭料理の大切さ、料理の楽しさを伝えたい。それが私の使命だと思っている。

今後は、私自身の料理研究家の事業としては、食に関連する企業へのレシピ提供やイベントへの参加など現在も行っている活動をさらに広げて、その上で執筆活動にも力を入れていきたいと思っています。
お料理アルバムについては、まずコンセプトとその大切さを少しでも多くの方々に知っていただく取り組みを続け、その後は、関連商品として別の形でのレシピ本を作成したり、お客様から集めたレシピを本にして紹介することなども予定しています。また、将来的には学校でお料理アルバムの簡易版を作ることを家庭科の授業として取り入れていただけるよう提案していこうとも考えています。利益が出にくい部分ではありますが、とにかくまずこの考え方を広く世に広めて、理解していただき、その結果として全体の売上が伸びて利益が出るという形を目指します。結果として、例えば10年後には、結婚式で親から子へお料理アルバムの贈呈式が行われるのが当たり前になっている。そんな姿が理想です。
「一人でも多くの人たちに外食、中食ではなく、家で作る楽しみを感じてもらえるようにしたい」という、私の根本にある考えの下、私なりの食育推進活動を行ってそれを広めていくこと。それが私の使命だと考えています。