求人情報誌の営業・編集・マーケティング、首都圏での人材派遣会社の支店運営の業務など、人材ビジネスの会社にて15年経験後、2003年に独立。高校生や女性のキャリア支援サポート業務に携わる。 2006年、地元静岡に帰省し(公財)就職支援財団の事務局長として学生のキャリア支援に従事。平行して、キャリア支援講座の講師や静岡市女性会館のキャリア相談員として地域の女性のキャリア支援業務に携わる。 2012年11月女性のキャリア支援の会社 株式会社るるキャリアを設立。「働く女子大学 うるおいプラス」をオープン。企業と個人の両方面から自分らしく働ける社会づくりを支援している。
働く女性のよき理解者!起業活きた役員経験とは――
静岡を中心に、働く女性のキャリア支援を営む、株式会社るるキャリア内田美紀子さん。 内田さんのキャリアの特色は、なんといっても役員時代の経験を持つことだろう。今回インタビューを通して、役員をきっかけに変わった事業への見方や、起業後、今の生活に役立っている点を伺った。 そして役員時代を経て、静岡で創業した理由や、現在携わっている、女性のキャリア支援駆け込み寺「うるおいプラス」の事業についてもお話を伺った。
<なんで私が? 猪突猛進の会社員が組織マネジメントへ>
内田さんのキャリアの転機は、三社目となる会社で求人事業を7年半経験したことからだ。当時の内田さんを一言で語るなら、「120%仕事モード」。とにかく仕事は断らず、そして疑問はとことん上司に質問する。当時200人規模の会社で働いていたため、社長に直接質問することもできた。内田さんの仕事に対するチャレンジ精神は社内で認められ、4年目で部長職に抜擢。当初は「なんで私が?」と思ったそうだが、「部長」という肩書きにとらわれることなく、ときには50人ほどの部下を抱えながら、目の前の仕事に力いっぱい取り組んでいた。
7年半後、横浜での子会社を立ち上げ、役員として起用された。数字をクリアすることへの責任感を持ちつつも、社内でのびのびと仕事をする様子が評価されたのではないか、と内田さんは分析する。しかし役員登用直後、株式の公開準備に入ったことで、雰囲気はがらりと変わった。コンプライアンスを徹底し、粗利だけでなく経常利益にも意識を向けるように。3年後の数字の伸びを強く求められる日々。社会保険の加入率を100%に引き上げ、取引先の基準をどう決めるかといったことまで考え、決定を下すようになった。部長と役員で視界が全く異なることに最初は戸惑った。120%仕事モードの内田さんだからこそ、上場企業の役員という全く新しい視界を経験できたのだ。
<役員経験は確実に“起業”に活きる>
役員として、会社のビジョンを作る側へ。このときの経験が、現在の自分に活きている。「ビジョンの描き方」「撤退基準」そして「人材マネジメント」の3つの経験だ。役員会では、役員として描いた会社の3年後のビジョンについて、数字の根拠と“思いの強さ”を徹底的に問われる。売上約50億の会社のビジョンを描くことは並大抵の経験ではない。さらに、事業やプロジェクトから撤退する決断を迫られることもあった。撤退の決定を下す経験を積んだことで、部下に申し訳ないと思っても、この事業は方向性を変えよう、という判断ができるように。現在も、常に役員時代の判断軸を持ちながら事業を展開している。
組織のマネジメント経験が活きた例として、社員採用もあげられる。会社員当時代はロジック重視で、面接で質問攻めにして、相手の良さを引き出すことに失敗することも……。当時は自分の働くスタイルを貫き通せばよかったが、役員経験を経たことで、昔より「待つこと」ができるように。るるキャリアで未経験の社員を採用した際にこれが活きた。最初は、未経験ゆえに「できません」「わかりません」が多かった新入社員も、内田さんが根気強く「待ち」、相手と向き合うことで、徐々に自分から動く様に。部下との接し方という意味でも、組織にいた経験が今に活かされていると感じる。
<仕事人間からプライベート重視のサバティカルフリーランスへ!>
2003年。サラリーマン生活15年が過ぎた内田さんは、何となくこのままでいいのか、と漠然とした不安を抱えはじめていた。次にやりたいことは何か。このとき内田さんは、次を決定する前に思い切って仕事を辞めた。これをきっかけに、120%仕事モードからプライベート重視に転向。人材業界に長くいた経験を活かし、キャリア支援の仕事をフリーランスではじめた。まだこの時、自分の頭の中に「起業」の文字はなかった。2年ほどフリーランスを続けた後、静岡で学生就職支援の財団立ち上げを手伝わないかという話が舞い込んできた。フリーランスに限界を感じていた内田さんは、タイミングの良さもあり、快諾。公益財団法人就職支援財団の事務局長に就任した。
財団に携わりながら、静岡市女性会館でキャリア相談員も務めていた内田さん。自分が仕事メインの人生だったことから、働く女性に、心豊かに人生を送ってほしいと願うようになった。当時、静岡にはこうした女性のキャリア相談の機能が無かった。「ここなら自分のキャリアが活かせる。働く女性のよき理解者になろう」。こうして内田さんは働く女性のための起業を決意した。組織内で事業を興していた会社員時代とはまた違った孤独感が起業にはあったという。起業に際して、あえて法人にこだわったのは、本気でビジネスをやるという覚悟表明だった。
<東京から1hの地方都市・静岡>
静岡には、女性キャリア支援のニーズがあると内田さんは語る。静岡県の人口流出率は全国第2位。就職で静岡に戻る若者は少ない。それゆえに、静岡で働いている女性はまわりに悩みを相談する人や場所がなくて困っているのだ。女性会館の職員に、「内田さんは静岡で働く女性のロールモデルだ」と言われたこともある。そこにビジネスのチャンスを見つけた内田さん。しかも、静岡は実はビジネス展開にはちょうど良い大きさだった。人口が小さくもなく大きくもないため、横のつながりもでき、口コミで事業が周知されている。
るるキャリアでは、県の事業受託、企業内研修事業と、「働く女子大学 うるおいプラス」を運営している。うるおいプラスは、「自分らしく」「しあわせに働く」ための、カフェ感覚の教室だ。受講生は20代後半から40代の働く女性が多い。人気の「ストレス・マネージメント講座」では、振り回されずに相手に伝える力を身に付けられる。「ドリームマップ講座」は目標達成のための講座。実際に目標を見つけ、次のキャリアへと踏み出した受講者もいる。内田さんの考える「うるおいプラス」は、「駆け込み寺」。行政では解決できない働く女性の悩みを聞き、よきリーダーを育てていきたいという。役員経験で培った事業のバランス感覚、そして「120%仕事モード」の会社員経験も今に活かす内田さん。働く女性のよき理解者として活躍する内田さんから、今後も目が離せない。